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アセスメント・選考設計

リファレンスチェックとは

違法性・質問内容・企業側の設計

16分
目次

リファレンスチェックとは — 違法性・質問内容・企業側の設計

リファレンスチェックは、採用選考の過程で、候補者の同意のもと、前職・現職の上司や同僚など「実際に一緒に働いた第三者」に、候補者の業務実績・働きぶり・人物像を照会するプロセスです。外資系企業では標準的な選考工程として定着しており、日本企業でも導入が急速に広がっています。

本稿では、リファレンスチェックの定義とバックグラウンドチェック・前職調査との違い、「違法ではないのか」という問いへの法的整理、選考研究が示す精度と限界、そして目的・評価軸・質問・結果の扱いという企業側の設計から、構造的な落とし穴までを整理しています。

なお、ここで述べる内容は一般的な傾向の整理であり、法的判断が必要な場面では弁護士等の専門家にご相談ください。また、HCM(人的資本経営)における最適解は、事業形態・規模・経営戦略・人財戦略・担当領域・担当者によって異なります。自社の状況に照らしながら読んでいただければ幸いです。


リファレンスチェックとは — バックグラウンドチェック・前職調査との違い

リファレンスチェックとは、候補者の同意を得たうえで、候補者と実際に働いた経験のある第三者(リファレンス=推薦者・照会先)に、業務上の実績・強み・働き方・人物像をヒアリングする選考プロセスです。照会先は候補者本人に紹介してもらうのが基本形で、前職や現職の上司・同僚が典型です。

混同されやすい言葉と区別しておきます。バックグラウンドチェックは、学歴・職歴・資格・訴訟歴などの「事実の正確性」を確認するコンプライアンス目的の調査で、人物像のヒアリングとは目的が異なります。前職調査は、かつて興信所などが本人に知らせずに行っていた身辺調査を指すことが多い言葉ですが、後述の通り、本人の同意なく個人情報を収集する調査は、現在の法制度のもとでは重大な法的リスクを伴います。リファレンスチェックの本質は「秘密の調査」ではなく、本人の同意と協力を前提とした、公開された照会である点にあります。

項目リファレンスチェックバックグラウンドチェック前職調査(旧来型の身辺調査)
目的実績・働き方・人物像の理解と、適合性の検証経歴・学歴・資格などの事実確認(コンプライアンス)素行・私生活を含む身辺の調査
情報源候補者が紹介する上司・同僚など、協働経験のある第三者公的記録・提出書類・データベース興信所等による聞き込み・調査
本人の同意前提(同意がなければ照会先も答えられない)説明と同意のうえで実施する同意なしに行われることが多く、重大な法的リスク
扱う内容行動・実績・協働の実像(職務関連の事項に限定)学歴・職歴・資格・訴訟歴などの事実私生活・評判など広範(要配慮領域に及びやすい)
位置づけ選考の精度を上げる照会リスク管理のための確認現在の法制度のもとでは推奨されない
図① リファレンスチェックと関連手法の比較 ── 本質は「秘密の調査」ではなく、本人の同意を前提とした公開された照会

なぜ広がっているのか — 「共通の知人」がいない採用の増加

エンワールド・ジャパンの調査(2021年・303社)によれば、中途採用でリファレンスチェックを実施している企業は全体の41%。ただし内訳には大きな差があり、外資系企業の58%に対して日系企業は23%と、2倍以上の開きがあります。一方でマイナビの2023年調査では、実施企業36.6%に「実施していないが今後検討したい」36.6%を加えると73.2%に達し、日本企業においても導入・検討が主流になりつつあることがわかります。

この拡大には、採用チャネルの構造変化が関わっています。かつての縁故採用やリファラル採用には、照会機能が最初から内蔵されていました。紹介者自身が、候補者と一緒に働いたことのある「リファレンス」だったからです。ところが、ダイレクトリクルーティングやスカウト媒体の普及によって、企業は「共通の知人が一人もいない候補者」と出会うことが標準になりました。数回の面接だけで、実務での再現性を判断しなければならない。リファレンスチェックの拡大は、採用チャネルの変化によって失われた照会機能を、明示的な工程として再発明する動きと捉えることができます。

なお、経営幹部の採用では、この工程はずっと前から標準でした。ヘッドハンティングの記事で述べた通り、エグゼクティブサーチではリファレンスチェック(経歴・実績・人物についての第三者照会)がプロセスに組み込まれています。ポジションの重要度が上がるほど、本人の自己申告だけに依存しない検証が求められる——この原則が、ミドル層の採用にまで降りてきているのが現在地です。


リファレンスチェックは違法ではないのか — 適法に実施する3つの条件

「リファレンスチェック 違法」は、この手法について最も検索されている不安の一つです。先に結論を述べると、**リファレンスチェックそのものを違法とする法律はありません。**適法か違法かは、手法ではなく運用で決まります。押さえるべき条件は3つです。

条件① 本人の同意 — 同意がなければ、前職企業は答えられない

リファレンスチェックで扱う情報は、候補者個人を識別できる「個人情報」です。ここで重要なのは、同意が二重に必要になる構造です。まず、照会を受ける前職・現職の企業や元同僚にとって、候補者に関する情報を採用企業に伝えることは個人データの第三者提供にあたり、本人の同意がなければ原則として応じられません(個人情報保護法)。つまり同意のない照会は、実施側が違法リスクを負うだけでなく、そもそも先方が答えられないのです。

実務では、候補者に対して「誰に・何を・何の目的で」照会するのかを事前に説明し、書面など記録に残る形で同意を取得し、その記録を保管します。調査を外部サービスに委託する場合は、委託先への情報提供についても同意が必要です。

この構造から導かれる重要な帰結が一つあります。候補者はリファレンスチェックを拒否できる、ということです。同意が制度の前提である以上、拒否は候補者の正当な権利であり、拒否したこと自体を不利益に扱う運用は、制度の前提と矛盾します。在職中の転職活動では現職への照会が事実上不可能であるなど、拒否や制限には合理的な事情があることが普通です。

条件② 目的の範囲 — 聞いてよいことには、法的な境界がある

職業安定法5条の5は、求職者の個人情報の収集を「業務の目的の達成に必要な範囲内」に限定し、目的を明らかにして行うことを求めています。さらに、人種・信条・社会的身分・病歴・犯罪の経歴などは個人情報保護法上の「要配慮個人情報」であり、取得には原則として本人の同意が必要です。厚生労働省の「公正な採用選考」の考え方も、応募者の適性・能力と関係のない事項の把握を不適切としています。

つまり、リファレンスチェックが照会してよいのは、**職務の遂行能力・実績・働き方に関する事項に限られます。**思想信条、家族構成、健康状態、私生活——これらに踏み込んだ瞬間、適法な照会は違法リスクのある身辺調査に変わります。質問設計の法的な境界線として、後述の設計セクションで具体化します。

条件③ タイミング — 内定の後では、結果を使えない

3つ目の条件は、見落とされがちですが実務上最も重要です。日本の判例法理では、採用内定によって「始期付解約権留保付労働契約」が成立すると解されています(大日本印刷事件・最高裁昭和54年判決)。つまり内定は「まだ入社していないから自由に取り消せる約束」ではなく、すでに成立した労働契約であり、その取消しは解雇に準じて扱われます。取消しが有効となるのは、客観的に合理的で社会通念上相当と認められる場合に限られます。

この法理をリファレンスチェックに当てはめると、順序の重要性が見えてきます。内定を出した後に照会を行い、その結果を理由に内定を取り消すことは、法的に極めて高いハードルに直面します。照会で得た印象や評価程度の情報では、取消しの合理性を基礎づけることは通常困難です。だからこそ、実施のタイミングは最終面接の後、内定提示の前が原則です。エンワールドの調査でも、実施タイミングは「最終面接の後」が62%と最多であり、実務の標準もこの順序に収斂しています。


リファレンスチェックは何を測れるのか — 研究と、観察時間の非対称

法的に実施できるとして、そもそもこの手法にどれだけの精度があるのか。選考研究の知見と、原理的な構造の両方から整理します。

予測妥当性 — 中程度、ただし証拠は古い

採用選考の手法がどれだけ入社後のパフォーマンスを予測するかについては、SchmidtとHunterが1998年に発表した85年分の研究の統合が長く参照されてきました。この中でリファレンスチェックの予測妥当性は.26——単体では中程度の予測力とされています。

ただし、この数字は慎重に扱う必要があります。Sackettら(2022年、Journal of Applied Psychology 誌)は、過去のメタ分析における統計的補正の過剰を指摘し、主要な選考手法の妥当性推定を全面的に改訂しました。改訂後の序列では構造化面接が.42で最上位となっています。一方、リファレンスチェックは、元となった研究が古く再計算に必要なデータを欠いていたため、改訂の対象外とされました。つまり現在の正確な位置づけは、「中程度の妥当性を示す証拠はあるが、その証拠は古く、質にも限界がある」です。効果を断言も否定もできない——だからこそ、精度を左右するのは運用の設計だということになります。

なぜ原理的には強力なのか — 数時間の選考と、数千時間の業務

研究の数字だけでは見えない、この手法の原理的な強みがあります。観察時間の非対称です。

選考プロセスが候補者を直接観察できる時間は、面接を数回重ねても、せいぜい数時間です。しかもその数時間は、候補者が選考の場に合わせて整えた行動のサンプルです。一方、前職の上司や同僚が候補者を観察してきた時間は、共に働いた数ヶ月から数年——数百時間から数千時間に及ぶ、装われていない実務の時間です。締め切りに追われたときの振る舞い、対立が起きたときの調整、成果が出ない期間の粘り、チームの中での実像。**選考の数時間では原理的に見極められない部分が、業務の数千時間を観察してきた人には見えています。**リファレンスチェックとは、この観察時間の非対称を選考に取り込む仕組みです。面接の代替ではなく、面接がアクセスできない情報源へのアクセスなのです。

ただし、2つの条件 — 鮮度と多面

もっとも、数千時間の観察がそのまま精度になるわけではありません。条件が2つあります。

第一に、情報の鮮度です。照会先が観察していたのは「いつの候補者」なのか。5年前の上司が語れるのは5年前の本人であり、人の職能も働き方もその後変化しています。アルムナイ採用の記事で「企業特殊資本は減価する」と述べたのと同じ構造で、観察情報も時間とともに減価します。照会先の選定では、関係の深さと同時に、協働時期の近さを重視すべきです。

第二に、多面性です。一人の照会先は、一つの立場からの一つの視点に過ぎません。しかも照会には構造的な寛大化バイアスがあります。照会先は多くの場合候補者自身が選び、候補者との関係を保ちたい照会先は、否定的な情報を積極的には語りません。全員が好意的に語る照会は、情報として痩せていきます。対処は視点を増やすことです。上司だけでなく同僚を、可能なら部下やプロジェクトの協働者を加え、複数の視点の重なりと差分から立体像を作る。多面評価の思想を、選考の照会にも適用するということです。

そして、鮮度と多面が揃っても、聞き方が世間話であれば情報は取れません。行動ベースの構造化された質問——具体的な場面で、実際に何をしたか——で聞く。これは構造化面接の記事で述べた「評価の精度は構造で上げる」という原理の、照会への適用です。

実践者としての補足: 私たちはリファレンスチェックを、条件つきで精度の高いアセスメントだと考えています。理由は上に述べた観察時間の非対称です。どれだけ面接を重ねても、選考の時間より業務の時間の方が圧倒的に長い。面接では見極められない部分——負荷がかかったときの行動、周囲との実際の関係——を見極められる可能性を持つ手法は、実はそれほど多くありません。ただし条件は明確で、情報の鮮度と、照会の多面性です。直近の協働者に、複数の視点から、行動ベースで聞く。この条件が崩れた照会——古い記憶を、一人から、印象論で聞く——は、精度のない儀式になります。手法が有効かどうかという問いは、ここでも「どう設計するか」という問いに置き換わります。


企業側の設計 — 目的・評価軸・質問・結果の扱い

目的の設計 — 疑うためか、理解するためか

リファレンスチェックの目的を「嘘の検出」に置くと、設計を誤ります。経歴の事実確認が主目的なら、それはバックグラウンドチェックの領分です。リファレンスチェックの中心的な価値は、適合性の検証と、入社後のマネジメント設計情報の収集にあります。

どんな環境で最も力を発揮してきたか。どんな支援があると立ち上がりが速いか。どんなマネジメントスタイルと相性が良いか——これらは合否判定を超えて、入社後の配属・上司の選定・オンボーディングの設計材料になります。ヘッドハンティングの記事で、着任後90日の設計が外部招聘の成否を分けると述べました。リファレンスチェックは、その90日を設計するための、最も具体的な情報源でもあるのです。

評価軸の統合 — 面接とリファレンスを、同じ軸で設計する

ここが、本稿で最も強調したい設計原則です。

よくある運用は、面接は面接で評価し、リファレンスチェックは最後に独立した工程として行う、というものです。この設計の問題は、リファレンスの結果と選考での評価がずれたときに、判断がブレることにあります。面接では高評価だったのに、照会では慎重な声が返ってきた。逆に、面接の印象は平凡だったのに、照会では絶賛される。どちらを信じるべきか——軸のない状態でこの問いに直面すると、結論は声の大きさや直前の情報に流されます。

原則は、選考で確認したいコンピテンシーと行動基準を先に定義し、面接の評価項目とリファレンスの照会項目を、同じ軸の上に設計することです。面接の段階で、リファレンスで確認できる類の内容——過去の行動の具体、実績の中身、周囲との働き方——を、構造化された形で先に押さえておく。そうすればリファレンスチェックは、ゼロからの情報収集ではなく、面接で立てた仮説の検証として機能します。

この設計のもとでは、ずれは「困った矛盾」ではなく「情報」になります。同じ軸の上でずれているなら、その原因を特定できるからです。文脈の差なのか(前職の環境と自社の環境の違い)、鮮度の問題なのか(照会先の観察が古い)、寛大化なのか、面接での演技なのか。ずれの解釈が可能になった時点で、リファレンスチェックは選考の精度を上げる装置になります。軸がなければ、同じずれは判断を混乱させる雑音になります。選考は、面接・リファレンス・適性検査という部品の寄せ集めではなく、一つの評価設計です。

質問の設計 — 聞くべきこと、聞いてはいけないこと

照会の質問は、法的な境界(条件②)と情報の質の両方から設計します。

聞くべきこと: 在籍期間・役割・レポートラインなどの事実確認。実績の具体(何を、どの規模で、どんな役割で)。行動エピソード(困難な場面で実際にどう動いたか)。協働の実像(どんなチームで、どう機能したか)。マネジメント適合(どんな環境・支援で力を発揮するか)。そして、最も情報量の多い一問——「機会があれば、もう一度一緒に働きたいと思いますか」。この問いへの反応の温度は、多くの形容詞より雄弁です。

聞いてはいけないこと: 病歴・信条・家族構成・出身などの要配慮個人情報と、職務と無関係な私生活。転職理由の詮索を照会先経由で行うことも避けるべきです(本人に聞くべきことを第三者に聞くのは筋違いであり、在職中の候補者の場合は転職活動の秘密保持にも関わります)。

領域目的質問の例
① 事実確認経歴の整合を確かめる在籍期間・役割・レポートライン・チームの規模
② 実績の具体成果の中身と本人の寄与を知る何を、どの規模で、どんな役割で達成したか
③ 行動エピソード再現性のある行動特性を知る困難な場面・対立・負荷がかかった時に、実際にどう動いたか
④ 協働と適合チームでの実像と、マネジメントとの相性を知るどんなチームでどう機能したか/どんな環境・支援で最も力を発揮するか
⑤ 再雇用意向最も情報量の多い一問「機会があれば、もう一度一緒に働きたいと思いますか」
図② リファレンスチェックの質問設計 ── 聞いてよいのは職務に関する事項のみ。要配慮個人情報(病歴・信条など)と私生活は照会禁止領域

結果の扱い — 単独で決めない、本人に閉じない

照会結果の扱いには、3つの原則を置きます。第一に、ネガティブな情報1件で結論を出さないこと。文脈・鮮度・照会先との関係性を確認し、重大な懸念であれば、候補者本人に説明の機会を与える。一方の言い分だけで不利益な決定を下すプロセスは、手続きとして公正さを欠き、誤りの確率も高くなります。第二に、ポジティブな情報は寛大化を差し引いて読むこと。第三に、結果は面接評価と同じ軸の上で突合し、ずれの解釈を含めて記録すること。取得した情報は個人データであり、利用目的の範囲での取り扱いと適切な保管・廃棄が求められます。


構造的な落とし穴 — 6つ

落とし穴① 同意なき実施 — 違法リスクと、信頼の同時崩壊

最も重大な落とし穴です。法的リスクに加えて、無断の照会は発覚した瞬間に候補者の信頼を失い、在職中の候補者であれば転職活動が現職に知られるという実害を与えかねません。「同意を取ると身構えられる」という発想は、制度の前提の否定です。

落とし穴② 内定後の実施 — 使えない結果を抱え込む

条件③で述べた通り、内定後の照会は、懸念が見つかっても法的に使うことが困難な情報を生みます。順序の設計ミスは、工程を無意味にするだけでなく、取消しをめぐる紛争リスクを自ら作ります。

落とし穴③ 読み方の欠如 — 寛大化の額面受けと、ネガ1件の短絡

全員が褒める照会結果を「問題なし」と読む。あるいは一人の慎重な声で候補者を切る。どちらも、照会が構造的に持つバイアス(寛大化・視点の偏り・鮮度)への理解を欠いた読み方です。結果は評価軸の上で、複数視点の差分として解釈する——読み方の設計まで含めて、リファレンスチェックです。

落とし穴④ 身辺調査化 — 公正な採用選考からの逸脱

「せっかく調べるなら」と、職務と無関係な領域に照会が広がっていくケースです。要配慮個人情報や私生活への逸脱は、適法な照会を違法リスクのある調査に変え、公正な採用選考の原則にも反します。質問リストの事前固定と、照会実施者への教育が防波堤になります。

落とし穴⑤ 候補者体験の軽視 — 依頼の設計も採用ブランド

リファレンスチェックは、候補者に「照会先を探し、依頼する」という負担を求める工程です。在職中の候補者は現職に頼めず、「頼める人がいない」と感じる人も少なくありません。前職・前々職の協働者でよいこと、依頼の趣旨を説明するテンプレートを用意すること、照会先の都合に配慮した方法(短時間・非同期など)を選べること。この工程をどれだけ丁寧に設計するかは、候補者から見えている企業の姿そのものです。カジュアル面談の記事で述べた通り、選考の順序が逆転した市場では、企業側のすべての工程が候補者による評価の対象です。

落とし穴⑥ 委託先そのものがリスクになる — サービス提供会社の選定

最後の落とし穴は、自社の運用ではなく、外部に委ねる部分にあります。

参照すべき先例があります。2019年、就活サイトの運営会社が、学生の十分な同意を得ないまま「内定辞退率」を予測し、スコアとして38社に販売していたことが明らかになり、個人情報保護委員会の勧告・指導を経てサービスは廃止されました(リクナビDMPフォロー問題)。さらにこの事案では、個人を特定する精度を高めるために、別の就活サイト「外資就活ドットコム」(ハウテレビジョン運営)と連携し、会員のWeb閲覧履歴などのデータ提供を受けて照合していたことも、運営会社の会見で明らかにされています。つまり、候補者本人がまったく想定していないところで、複数のサービスの間でデータが連携され、突合されていたのです。リファレンスチェックのサービスではありませんが、採用に関わる候補者データを扱う事業者そのものが、法令や候補者の合理的な期待に反する設計を持っていた事例として、示唆は直接的です。そして最も重要な教訓は、データを購入・利用していた企業の側も、後に個人情報保護委員会の指導の対象になったことです。「外部サービスに任せていたから」は、免責の理由になりませんでした。

リファレンスチェックの照会代行やプラットフォームは、工数の観点から有用な選択肢です。しかし委託しても、候補者の個人データの取扱いに対する責任は委託元の企業に残り、委託先を監督する義務も伴います。選定時に確認すべきは、少なくとも次の4点です。①候補者・照会先双方からの同意取得フローが適法に設計されているか。②取得したデータの二次利用や、他のサービス・事業者とのデータ連携(提供・照合・スコアリングへの転用など)がないか、規約上明確か。③データの保管期間・削除ポリシーが定められているか。④第三者認証や運用の透明性があるか。サービスの便利さの裏で、候補者のデータがどこへ流れ、何と突合され、何に使われるのか——それを確認しないまま導入することは、落とし穴①〜⑤のリスクを、見えない場所で抱え込むことと同じです。

なお、この「データの来歴を確認する」という観点は、リファレンスチェックのサービスに限った話ではありません。人材紹介、スカウト媒体、ダイレクトリクルーティングのデータベース——採用チャネルの多くは、構造上、候補者情報の仲介そのものを事業としています。だからこそ、紹介やスカウトを通じて出会う候補者の情報が、本人のどのような同意に基づいて取得され、どのような経路で自社に届いているのかは、本来、情報を受け取る企業の側が関心を持つべき事項です。個人情報保護法は個人情報の適正な取得を求めており、来歴の不明な候補者情報を受け取ることは、受け取る側のリスクにもなり得ます。リクナビの事案が示したのは、特定のサービスの問題である以上に、候補者データが流通する市場で情報を受け取るすべての企業が、その来歴に無関心ではいられなくなった、ということです。

実践者としての補足: 評価軸の統合を実務に落とすとき、私たちが必ず決めておくことが一つあります。「ずれたときに、誰が、どう扱うか」です。リファレンスの結果が面接評価と食い違ったとき、その場の空気で判断すると、結論は毎回ブレます。ずれの原因候補(文脈・鮮度・寛大化・面接での見え方)を順に検討し、必要なら本人への確認や追加照会を行い、最終判断の責任者を決めておく——この手順があるだけで、リファレンスチェックは「不安を増やす工程」から「判断を安定させる工程」に変わります。もう一つ。照会に応じてくれた方への礼を尽くすことです。照会先は、候補者のために時間を割いてくれた社外の協力者であり、その体験もまた、自社の評判として外に残ります。


企業フェーズ別 — リファレンスチェックの使いどころ

立ち上げ期(〜50人)

全員への実施は不要です。このフェーズで優先すべきは、事業の生死に関わる幹部・キーポジションの採用における限定的な実施です。組織が小さいほど一人の採用ミスの影響は大きく、逆に選考体制は薄い——観察時間の非対称を借りる価値が最も高いのが、実はこのフェーズの重要採用です。サーチファーム経由の幹部採用であれば、リファレンスは工程に組み込まれています。

成長期(50〜500人)

ミドルマネジメント以上の採用での標準化を検討するフェーズです。重要なのは、リファレンスチェック単体を導入するのではなく、評価軸の統合とセットで設計することです。構造化面接の導入・評価基準の定義と同じタイミングで、照会項目を同じ軸の上に置く。採用数が増えるこの段階では、照会の実務を支援するサービスの活用も、工数の観点から現実的な選択肢になります。ただし、その選定には落とし穴⑥で述べた観点——同意フローの適法性・データの二次利用や他サービスとの連携の有無・保管削除ポリシー——の確認が前提です。

成熟期(500人〜)

実施の有無よりも、運用の統治が論点になるフェーズです。同意取得のフローと記録、情報管理、質問リストの統制、全候補者への公平な適用、海外拠点採用における各国法制への対応。ばらばらの現場運用は、このフェーズでは法的リスクとしても公平性の問題としても顕在化します。リファレンスチェックを「制度」として文書化し、監査可能な状態に置くことが求められます。


リファレンスチェックは「疑うための調査」ではなく「理解するための照会」

本稿では、リファレンスチェックの定義と関連手法との違い、適法に実施する3条件、研究が示す精度と観察時間の非対称、評価軸の統合を軸とする設計、そして6つの落とし穴までを整理してきました。

最後に、一つの見方を共有します。

面接は、本人が語る過去です。リファレンスチェックは、他者が見た過去です。情報源としての性質はまったく違いますが、共通点が一つあります。どちらも、語っているのは過去だけだということです。過去の情報がどれだけ精緻でも、入社後の成功そのものは保証しません。過去の情報の価値は、合否の判断に使われることに半分、そしてもう半分は、この人がどうすれば自社で力を発揮できるかという、入社後の設計に使われることにあります。疑うための調査として運用されるリファレンスチェックと、理解するための照会として運用されるリファレンスチェックは、同じ工程でも、生み出すものがまったく違います。

そして、ここには一つの映し鏡があります。リファレンスチェックが照らし出すのは、候補者が過去の職場でどんな関係を築いてきたか——「その人の仕事を、喜んで語ってくれる人がいるか」です。視点を返せば、自社を辞めていった人たちが、いつかどこかで自社について照会を受けたとき、喜んで語ってくれるだろうか。リファラル、アルムナイ、そしてリファレンス——採用のチャネルと工程は、突き詰めればすべて「人が語りたくなる会社であるか」という同じ土台の上に立っています。採用の質は経営の質の反映である——この見方は、他者の言葉を借りるこの工程において、最も静かに、しかし確実に現れると考えています。


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この記事について

本稿は、iBECK代表・竹中淳人の実務経験に基づいて執筆しています。

前職にて8年半、採用責任者として年間応募者数を1万人から8.6万人に拡大。人事採用領域で日本1位を13回取得。世界5地域・60大学超での採用活動を経験。独立後12年間にわたり、人財戦略コンサルタントとして、従業員30名のベンチャーから約5万人規模の大手企業まで、採用ブランド設計・採用戦略立案を支援してきました。

本稿で述べた知見は、公開されている研究・統計データと、こうした現場経験から得た「知恵」の両方を組み合わせて整理したものです。


参考文献

  • Schmidt, Frank L. & Hunter, John E. (1998) "The Validity and Utility of Selection Methods in Personnel Psychology: Practical and Theoretical Implications of 85 Years of Research Findings" Psychological Bulletin 124(2): 262–274 — 19の選考手法の予測妥当性の統合。リファレンスチェックは.26
  • Sackett, Paul R.; Zhang, Charlene; Berry, Christopher M. & Lievens, Filip (2022) "Revisiting Meta-Analytic Estimates of Validity in Personnel Selection: Addressing Systematic Overcorrection for Restriction of Range" Journal of Applied Psychology 107(11): 2040–2068 — 過剰補正の指摘と妥当性推定の全面改訂。構造化面接が.42で最上位。リファレンスチェックは旧研究のデータ不足により再計算の対象外
  • 大日本印刷事件(最高裁第二小法廷 昭和54年7月20日判決)— 採用内定により始期付解約権留保付労働契約が成立するとした判例
  • 個人情報保護法 — 個人データの第三者提供に関する本人同意(27条)、要配慮個人情報の取得制限、適正な取得
  • 職業安定法 第5条の5 — 求職者の個人情報は業務の目的の達成に必要な範囲内で、目的を明らかにして収集
  • 厚生労働省「公正な採用選考の基本」— 応募者の適性・能力に関係のない事項の把握を不適切と整理
  • エンワールド・ジャパン「中途採用における、リファレンスチェック実施状況調査」(2021年・303社) — 実施率41%(外資系58%・日系23%)、実施タイミングは最終面接後が62%、採用判断への影響あり約70%
  • マイナビキャリアリサーチLab (2023年調査) — リファレンスチェック実施企業36.6%、今後検討36.6%(合計73.2%)
  • リクナビDMPフォロー問題 (2019年) — 就活生の内定辞退率を十分な同意なく予測し38社に販売。個人特定の精度向上のため、別の就活サイト「外資就活ドットコム」から会員の閲覧履歴等のデータ提供を受けて照合していたことも判明。個人情報保護委員会の勧告・指導を経てサービス廃止。データを利用した企業側も後に指導対象に(ITmedia NEWS 2019年8月27日 ほか各社報道)
FAQ

よくある質問

リファレンスチェックでは何を調べますか?
候補者の同意のもと、一緒に働いた経験のある上司・同僚などに、在籍期間や役割などの事実確認、実績の具体、困難な場面での行動、チームでの協働の実像、どんな環境・支援で力を発揮するかといった、職務に関する事項を照会します。人種・信条・病歴などの要配慮個人情報や、職務と無関係な私生活は、法令上も照会すべきではありません。
本人の同意なしに実施すると違法ですか?
リファレンスチェック自体を違法とする法律はありませんが、本人の同意なく行うことには重大な法的リスクがあります。前職・現職の企業にとって候補者情報の提供は個人データの第三者提供にあたり、本人の同意がなければ原則として応じられません。実施する企業は、誰に・何を・何の目的で照会するかを事前に説明し、記録に残る形で同意を得ることが必要です。なお、同意が前提である以上、候補者はリファレンスチェックを拒否できます。
いつ実施すべきですか?内定後でもよいですか?
最終面接の後、内定提示の前が原則です。判例上、採用内定によって労働契約が成立すると解されており、内定の取消しは解雇に準じた高いハードルが課されます。内定後に照会して懸念が見つかっても、それを理由とする取消しは法的リスクが大きく、結果を実質的に使えません。調査でも実施タイミングは「最終面接の後」が62%と最多です。
結果が悪かった場合、不採用にしてよいですか?
ネガティブな情報1件だけで結論を出すことは推奨されません。照会には寛大化などのバイアスがあり、情報の文脈・鮮度・照会先との関係性を確認する必要があります。重大な懸念であれば候補者本人に説明の機会を与え、面接評価と同じ軸の上で突合して判断します。内定前であれば採否は企業の裁量の範囲ですが、内定後の取消しには厳しい法的制約があります。
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リファレンスチェックは、評価軸の設計とセットで初めて機能する工程です。面接評価との軸の統合、質問設計、適法な運用体制の構築まで、選考全体を一つの評価設計として組み立てる支援を行っています。3営業日以内にご返信いたします。